快晴の中、相変わらず風速5.5m/sの強風が吹き荒れ、この風が“向かい風”となってスコアを落とした選手、“追い風”となってスコアを伸ばした選手と、さまざまな表情を見せたムービングサタデーの大会3日目。
トータル9アンダーの首位に立って最終日を迎えることになったのは、高橋彩華と山下美夢有の二人。高橋は3バーディー・1ボギーの70でラウンド。山下は3バーディー・3ボギーのイーブンパーでプレー。前日に2打差をつけられていた高橋が並ぶ格好で、ともに初優勝をかけ、最終日最終組での決戦となるのか。
首位から2打差の通算7アンダー、3位タイには3人が並んだ。この日5つスコアを伸ばし、13位タイから順位を上げた比嘉真美子、5番でイーグルを決めるなど、スコアを3つ伸ばした髙木優奈、そしてスコアを一つ伸ばした鶴岡果恋が、それぞれ逆転優勝をもくろむ。
さらに1打差の通算6アンダー6位タイに、稲見萌寧、穴井詩、通算5アンダーの単独8位に小祝さくらと、実力者が下から虎視眈々。雨の予報が出ており、風雲急を告げる最終日。葛城GCがどんな表情を選手たちに見せてくれるのか―。
「固定観念は罪。先入観は悪」。戦後初の3冠王になった日本プロ野球界のレジェンド、故・野村克也氏がよく口にしていた言葉。固定観念や先入観に縛られてしまったのでは、せっかくのチャンスを逃してしまうかも知れないという警鐘だ。
前日の予選第2ラウンドでは風が吹き、出場117名中、アンダーパーは15名を数えただけ。決勝ラウンドには通算3オーバー・56位タイまでの61名が進出した。
ムービングサタデー。予選カットをクリアーし、決勝ラウンドに駒を進めた選手たちは、順位を上げようとアグレッシブなプレーをすることから、大会3日目はそう呼ばれる。
難攻不落と言われる大会舞台・葛城ゴルフ倶楽部は、前日とほぼ変わらない毎秒5.5メートルの風が吹いていた。だが、例年とは異なってグリーンは思ったほど硬くはなかった。ボールが、いつもより止まる硬さだったのだ。
「ボールが止まりやすい葛城のグリーンを初めて見たような気がする。でも、選手は難しいと口にする。もっとピンデッドに攻めて行ってもグリーンからボールが転がり落ちないのに…と歯がゆかった」。
ベテランのツアーキャディーが、ホールアウト後そうボヤくのを耳にした。難攻不落の4文字が、アグレッシブなプレーを選手たちにさせない。そして「ショットのイメージが、どうしてもピン手前になってしまう。ピンをデッドに攻めるショットイメージや強い気持ちを持った選手が、今日はスコアを伸ばすだろうな」と言ってクラブハウスを後にしたのだった。
難しいと思い込んだり、決め込んだりするのは自分。思ったよりも難しくないと感じるも自分。果たして、どちらの自分でプレーできるのか。
そんな第3ラウンドでアンダーパースコアをマークしたのは17名。その一人である比嘉真美子は4連続バーディーを含む6バーディー・1ボギーの67で回り、通算7アンダーでフィニッシュ。13位タイから3位タイに大きくジャンプアップし、首位と2打差で明日は最終組からスタートする。
「1番ホールでティーショットを左に曲げ、パーパットは2メートル。大きく曲がるスライスラインでしたが、それを入れて耐えられ、いい流れに乗れました」と比嘉は振り返った。4ホールのパーセーブ後、5番パー5で2メートルのバーディーパットを入れ、それ以降2メートル、5メートル、3メートルのバーディーパットも沈めて4連続バーディー奪取に成功したのだった。
インコースに折り返してからは5ホール連続のパーセーブ後、15番パー5ホールで2メートルのバーディーパットを決めて、通算7アンダーとした。16番パー4をボギーとしたものの、最終18番パー5ホールでは3打目を3メートルに着けてのバーディーフィニッシュで締めくくり。
「一つでもスコアを伸ばしたい思いはありましたが、普段どおりにプレーしていたらバーディーチャンスが来たという感じです。まだ3日目ですから…(優勝を意識するのは明日の)バックナインに入ってからです」と淡々と答えた。
あまりにも素っ気ないコメントだが、そこにはツアー通算5勝の経験が見え隠れする。しかも、この大会は比嘉にとってツアー初優勝を挙げた忘れられないメモリアルトーナメントなのだ。
「地元開催や優勝した大会はモチベーションが高まります。特にこの葛城でのプレーで好スコアをマークすると自信につながります。ショットだけでもパットだけが良くてもスコアは出せません。すべてが噛み合ってスコアになるコースですから」。
比嘉は初Vを遂げた時のプラスイメージを持っていることがアドバンテージだと言えるだろう。
「葛城は1番ホールから最終18番ホールまで何が起こるかわかりません……」。間をおいて、こう続けた。「2打差は射程圏内です。チャレンジャーの気持ちを持って臨みます。逆転優勝が出来たら、(初V当時よりも)心技体がレベルアップした証になると思いますし、自信が確信に変わりますね」。
難攻不落の大会舞台の奥深さを知っている。そして、葛城ゴルフ倶楽部は初優勝によって自身をトッププレーヤーに押し上げてくれた。その恩返しのためにも、この逆転チャンスを生かし切るしかない。比嘉の目が一瞬キラリと輝いたように見えた。
「風の読みが上手くいかなくて、厳しい展開でしたが、上手くマネジメントができて、何とか耐えながらアンダーで回れてよかったです。どのホールも気を抜いたらボギーになってしまうので、明日は順位のことは考えず、毎ホール自分がやるべきことに集中したい」
「今日はショットがぶれて、アプローチも寄せ切れなかったけど、何とか耐えるゴルフができました。明日は最後なので、修正していいプレーをしたい。たくさんのカメラに囲まれる経験もなく、緊張してプレーしていたので、落ち着いて集中してやりたいです」
「今日はパッティングが良くて、満足のいくゴルフができました。最後、二つボギーを打ってしまい、そういうゴルフでは優勝はできない。スコアのことを考えてしまうと気持ちのコントロールができないので、1打1打を冷静に考えて、自分のゴルフができれば」
「今日のゴルフは本当に苦しくて、なかなかバーディーがとれませんでした。ショットは良かったんですが、パットに苦しんだ1日でした。明日は初優勝を目指して、1日集中して、皆様から応援されるように、良いプレーが出来るように頑張ります」
「今日はパターが入ってくれました。昨日もおとといも惜しいのが入ってくれなかったので、上手くかみ合った感じです。雨は得意ではないですけど、誰が勝つか分からないし、伸ばしあいになるよりはいいですね」